普段あまり使わない声帯で、大声を張り上げて彼女の名を叫んだ。
更に近付こうと距離を詰めるべく、一歩踏み出した直後…アシュは、立ち止まった。
ゆっくりと振り返った彼女の顔は、吹雪のベールでほとんど見えない。
だがしかし、どんな表情をしているのかくらい…分かっているつもりだ。
「………どうして追い掛けてくるのよ。…そんなにあたしを………帰したいの?」
「………帰るべきだと、言ったのだ。………お前には、居場所がある。…お前がいるべき場所が…」
「勝手に決めないでよ!!………居場所?…あたしは…行きたい所へ行く。あたしが行きたい場所が、あたしの居場所よ!!少なくともあの家じゃないわ!!貴方何も分かってない!!分かっていないのよ!!………………………………帰りたくない…」
どうしてだと思う?
歌い続ける風の群れ。
奏でられる不協和音。
憎らしいほど純白で無機質な白銀の雨。
止むことを知らない舞姫達に囲まれた舞台で………アシュはギュッと両拳を握り締め、唇を噛み締めて、ザイへ…言葉を紡ぐ。
…どうしてだと思う?
………最初に言った通り、あたしは自由が欲しい。
自由を求めて家を出た。
自由のために、家を捨てた。貴族を捨てた。身分を捨てた。豊かな人生を捨てた。
だから…帰りたくない。
………最初は、そうだった。
今もその気持ちは変わらない。
だけど。
「だけど………あたしは………あたしが帰りたくないのは……」
………瞬間。
―――…佇むアシュの足元で、小さな雪の塊が跳ねた。


