慌てて立ち上がり、その後を追うように寒々とした外へと身を投じれば……粉雪で覆われた視界の向こうに、見慣れた背中が微かに見えた。
そしてそれは、遠ざかっていく。
振り返りも、せず。
「―――アシュ…!!」
はたして、ザイの声は聞こえているのだろうか。この吹雪の歌声に溶けることなく、この声は彼女の耳には届いているのだろうか。
……いや、たとえ聞こえていたとしても、彼女は応えてはくれないだろう。彼女の言うような…答えを与えない、私の、様に。
アシュは防寒着のマントさえ持たずに外へ出て行っていた。
…この雪国は、並の寒さではないのだ。それは彼女自身もよく分かっている筈。
……身を守る武器も、術も無く、身一つで。
(……どうして…)
……私は、そんなにも頼られていたのだろうか。
一人の人間に、頼られていたのだろうか。
彼女を泣かせてしまうほど、私は。
(………どうして、泣くのだ…)
誰も聞こうとしない、理解しようとしない、私なんかの…言葉に。
あっという間に見えなくなった影。
ザイは地を蹴り、追い掛けた。
欝陶しい風の音と吹き付ける雪が彼女の気配を消し去ろうとするが、そんな障害など、ザイには障害ですらない。
雪に慣れきった俊敏な足で少しの距離を駆け抜ければ…追い求めていた人影は、直ぐに視界の中に浮かび上がってきた。
肩よりも少し長い位置で切り揃えられた青銀髪の美しい光沢が、風に靡いて煌めいている。
雪に足をとられながらも、華奢な身体は懸命に前へ前へと進んでいた。
この銀世界に溶けて消えてしまうのではないかと思うほど…儚く見えた。


