亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~






呼べば顔を上げてくれた彼女の純粋無垢な瞳を、悲哀の色に染めたくはなかったが。

そのまま言葉をポツリポツリと紡いでいくと………案の定、その瞳は大きく揺らいだ。



―――『帰るべきだ』。









…無性に重いその一言は、彼女にとっては私の感じたそれよりも何倍も重くのしかかったに違いない。
以前の様に罵倒が放たれ、憎々しげに睨まれるかと思えば…突然、アシュは立ち上がった。




自分を見下ろす彼女の瞳には、怒りや苛立ちなど無く、ただ…。



「…アシュ」

「言いたいことはそれだけ?………結局…最初から聞いてなんかいなかったのね?」

「………」

「………また…だんまり?……貴方っていつもそうよね。………言いたくない事は言わない……答えなんか……くれ…ないんだ…から…」

「…アシュメリア」


零れた温い涙を袖で乱暴に拭い、気は強いけれど震える鼻声でザイに怒鳴り続ける。


これまで、色んな彼女の表情を見てきたが…泣き顔は初めてだった。


………こんな顔は、見たくない。







「………所詮は、赤の他人よね。……いくら憐れでも、可哀相でも………他人だもの。…その他人に頼ったって………意味が無い…のね……。…………………………あたしが馬鹿だったわ」





…途端、吹雪の端くれの様な冷たい風が焚火を揺らめかせ、地を履い、強張るザイの頬を撫でた。

二つの影は離れ、薄暗く狭い空間が、急に………広くなった。


「………!?」

小走りに雪を踏み締める音と共に、無言を貫いた細い背中が視界から消えた。



真っ白な吹雪が踊り狂う舞台へ、彼女は迷う事無く歩んでいった。