亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


…ザイは無言で微笑を浮かべるのみ。

アシュは、彼が質問しても満足のいく答えをくれないことも分かってきた。腹を立てるだけ無駄である。会話など全然無いに等しいが、アシュは気にする様子も無く話題を変えた。




「…ねぇ、貴方の名前………ザイロングって、どういう意味」

「………意味?」


アシュの突拍子も無い質問に、ザイは中央の小さな焚火から視線を上げた。
…名前の意味など、考えたことが無かった。
狩人では、名前は占いで決める事が多い。縁起のいい単語の組み合わせだとか、決め方は目茶苦茶である。

親も、特に何も考えずに名付けたに違いない。ザイが無表情で首を左右に振ると、アシュは再度口を開いた。

「…あたしのは…意味、あるわよ。………アシュメリアっていうのはね………デイファレトの古典語で…『愛』、なんですって。…捻りも何も無いでしょう?」

「……『愛』…か。…いい名ではないか」

「あからさま過ぎてあたしは嫌よ。………芸の無い両親だったのかしらね…」








アシュメリア。

我が子に『愛』、と名付けた彼女の両親は、どんな人間だったのだろうか。

少なくとも、我が子を愛していたに違いない。
亡くなった今でも…彼女の事を愛しているに違いない。

たった一人の、我が子。
父代わりの人間の手によって、大事に大事に育てられた………愛されている彼女。









………その彼女は今…使ったことのない羽で、自由に溢れた空へと飛び立とうとしている。

空は汚れきっているとも知らずに。

傷付くとも知らずに。









―――…やはり、彼女は。
















「…そういえば、狩人とあたし達街の民の古典語は違うんでしょう?狩人の古典語では、『愛』は何て言…」

「アシュ」