…ザイは無言で微笑を浮かべるのみ。
アシュは、彼が質問しても満足のいく答えをくれないことも分かってきた。腹を立てるだけ無駄である。会話など全然無いに等しいが、アシュは気にする様子も無く話題を変えた。
「…ねぇ、貴方の名前………ザイロングって、どういう意味」
「………意味?」
アシュの突拍子も無い質問に、ザイは中央の小さな焚火から視線を上げた。
…名前の意味など、考えたことが無かった。
狩人では、名前は占いで決める事が多い。縁起のいい単語の組み合わせだとか、決め方は目茶苦茶である。
親も、特に何も考えずに名付けたに違いない。ザイが無表情で首を左右に振ると、アシュは再度口を開いた。
「…あたしのは…意味、あるわよ。………アシュメリアっていうのはね………デイファレトの古典語で…『愛』、なんですって。…捻りも何も無いでしょう?」
「……『愛』…か。…いい名ではないか」
「あからさま過ぎてあたしは嫌よ。………芸の無い両親だったのかしらね…」
アシュメリア。
我が子に『愛』、と名付けた彼女の両親は、どんな人間だったのだろうか。
少なくとも、我が子を愛していたに違いない。
亡くなった今でも…彼女の事を愛しているに違いない。
たった一人の、我が子。
父代わりの人間の手によって、大事に大事に育てられた………愛されている彼女。
………その彼女は今…使ったことのない羽で、自由に溢れた空へと飛び立とうとしている。
空は汚れきっているとも知らずに。
傷付くとも知らずに。
―――…やはり、彼女は。
「…そういえば、狩人とあたし達街の民の古典語は違うんでしょう?狩人の古典語では、『愛』は何て言…」
「アシュ」


