彼女の父は、遠く離れた別の街にいるらしい。
滅多に帰ってこないが、だからこそ、この騙しはきいていた。
…だが、そんな見えない抵抗が続く筈も無く…とうとう婚儀の日取りが決められてしまった。
「………父は…根はいい人よ。…血は繋がっていないけど………本当の親子と変わらないくらい、愛情をくれたわ。………父のためなら、何だってしてあげたい。恩返しをしたい。でも………………嫌なものは、嫌なのよ。………貴方はどう?親と仲は良いの?」
父のために何かしてあげたいという気持ちと、自由になりたいと叫ぶ気持ち。水と油同然、決して混ざり合わない双方は、アシュの胸中で止む事なく揺らいでいる。
…少し話を逸らそうと、アシュは何気なくザイに話を振った。
聞く側から答える側へと一転されたザイはというと………歩みを止めぬまま、自嘲的な何とも言えない微笑を浮かべた。
「………私か?…私も父がいるが………あまり話した事は無い。………もう何年も、会っていない…」
「………そう…なの?……狩人って…そういうものなの?」
………過保護な自分の家庭に比べ、ザイは正反対。父親以外の人間の元で教養を学んだが、それは幼少期のみ。
十代に入ってからは、ほとんど一人で育った様なものだった、と彼は言った。
孤独に、慣れている。
孤独が、普通だ。
「………友人とか、少なそうね…だって貴方、見るからに一匹狼だもの…」
「…あまり他人といるのを好まないからな。………と言うよりも………他人が苦手だ。………独りが落ち着く…」
…どうやら、ザイは本当に根っからの一匹狼らしい。
他人が苦手、と呟いたザイに、アシュは眉をひそめた。


