「………私ね…もうすぐ………………結婚…する予定だったの…」
「………ケッコン…?………………ああ…成る程」
…狩人の世界では聞き慣れない単語に首を傾げたが…そこは教養のあるザイ。すぐに理解した。
…結婚、とは、確か好き合う男女の契りだった筈だが………何故かその結婚間近のアシュの顔は、暗い。
彼女を纏う空気はピリピリとしていて、なんだか苛立っている様だ。
「………何で首を傾げてるのよ。…結婚…って言ってもね………政略結婚なの。………ろくに知らない、好きでも何でも無い貴族の男と…無理矢理ね」
「………何だそれは…」
…正直、ザイは驚いていた。………色恋に…政略?なぜ政略などに利用されなければならないのか。
政略結婚などというものが存在しない狩人にとっては、貴族のそういった習慣が複雑怪奇に思えてならない。
狩人は、違う。
狩人は…純粋に、一途な恋愛しかしない。
恋愛は恋愛。外界の介入などあってはならない。
「………相手とは…面識も無いのか?」
「…面識くらいはあるわよ。………一回だけ。気の弱そうな男だったわ。…父は頻繁に会うようにって言ってくるけど…そんなの御免だわ。会わないと父に怒られるから…その気弱な婚約者を手紙で脅して、ちゃんと仲良くしてますよー…って、父を騙してるの。………父は仲のいいカップルと思ってるみたいだけど…とんでもないわ」
アシュは肩を竦め、口元に微かな嘲笑を浮かべた。
………このアシュからどんな暴言を吐かれたのか知らないが…脅されている婚約者が、なんだか憐れだ。


