亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


…途端、アシュは目を丸くした。
彼女の顔は何故か、見る見る内に赤くなっていく。
疲労故に急な高熱まで出たのか…と、弓の腕が優れた狩人にしては的外れな事を考えるザイ。



…本来、貴族の世界では、男性はみだりに女性に触れてはならないという習いがある。
昨日の賊から逃げる時の様な、予想外の事態の場合は致し方無いが…。



…こんな普通に…しかも触れるどころではない。おぶるなど…。



あるまじき事をさらりと言ってのけたザイは当然だが、そんな習いなど知る由も無い。
だから、直後に無言でアシュから平手打ちを受け、頬に紅葉を浮かばせた後も、ザイの頭は困惑しっぱなしだった。



何故だ、貴族とは誠におかしな生き物だ…と首を傾げ、地味にヒリヒリと痛む頬を摩る。


「…………………分からん…」

貴族って何?…と混乱する中、ザイの本音がポツリと漏れた。
再度アシュを見れば、彼女は赤らめた顔で唇を噛み締めてこちらを睨んでいる。小動物から威嚇されている気分だ。

「………き、気安く言わないでよ!おぶるですって?どうしてあんたなんかにおぶられないといけないのよ!」

「……………何だ?……おぶられるのが…嫌いなのか………?………疲れているのだろう…?………分からん…分からんぞ貴族………!」

「ブツブツうるっさい!………もういいわ!ほら、歩きなさいよ!ただしもう少しゆっくり歩きなさい!」


半ば強引に前進をさせられ、困惑したままザイはとにかく歩いた。
気持ち、歩幅を小さくしてゆっくりと歩いてみたが、背後の彼女にとってはまだ速いらしい。


…色々と考えた末、ザイは無言で彼女に手を差し延べた。