亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



…だが、鬱蒼と茂っていると思い込んでいた森林の向こうは、急斜面の坂だった。
歩き慣れない厚い積雪に足を取られた事も加え、そのまま真っ逆さまに落ちたのだ。




何の因果か、そこに居合わせたのがザイだったという訳である。


「…あの襲ってきた賊、混乱したでしょうね。…捕まえるのは小娘の予定だったのに、馬車から出て来たのは男なんだもの。………場所が街のすぐ近くでもあったから…馬車を放置してもう逃げているんじゃないかしら?…今頃、過保護なうちの屋敷の連中が空っぽの馬車と老人の死体を見付けてるでしょうね。………でもこれは…チャンスかも。…あたしは賊にさらわれた…って事にならないかしら…」



空っぽの馬車と死体。そして自分の失踪。


誰もが、賊の襲撃に遭い誘拐されたと思うだろう。
あえて捜索の目をそちらに向けさせれば、そう簡単には見付からない。

災い転じて何とやら。自由を得るなら今だ。



そう言って黙々と思慮に耽る彼女だったが………それに対し、ザイは低い声で言い放った。









「…帰れ」





「………何よそれ…」

真っ向から言われた反対意見に、当然ながら彼女は顔をしかめたが、ザイはそのまま続ける。



「………井の中の蛙同然の小娘が、この街の外に出るなど…愚かだ。………お前は外という世界を、まるで分かっていない。………大人しく帰れ。お前の頼みなど聞けん」

…何処か険しい、真剣な表情でザイは言った。
脅しなどではない。街の民にとって、外は過酷な自然と獣で溢れた…常に生死が行き交う世界なのだ。

屋敷が窮屈だろうが何だろうが…彼女は戻るべきだ。彼女のためにも。


「………過保護な家ならば、親御も心配している筈だ。早々に帰って…」




「うるさい!勝手な事…言わないでよ!」