白く霞んだ視界の先は、さして深くない谷。
約二十メートル程下の谷底は積雪で覆われていたが………暗闇の中で、激しく動く大小の影がぼんやりと浮かんで見えた。
小さいのは、恐らく狩人。握り締めた大きな剣で小さな火花を舞い散らしていた。
………その狩人を谷の端まで追い詰めて行っている大きいのは…。
「…………『蟲(むし)』だ……」
この暗闇でもはっきりと分かるその姿は、簡単に言えば巨大な芋虫。
鋼の如き固い甲殻を持ち、多数の短い足の爪には毒がある。
背中の殻は呼吸器官と聴覚があり、薄く開けて呼吸をし、周囲の気配を察知する。
でかくてウネウネしている姿は何だかとろく見えるが、地面に潜って移動する蟲はとても動きが早く、油断していると足元からその気持ちの悪い口でガブリと囓られる。
………そうなるともう終わりだ。
蟲はカーネリアンなどの肉食動物を天敵としているが……産卵前のこの時期はそんな天敵もおらず、我が物顔で地上に出て来ている。
………きっとこの谷は縄張りだったのだろう。…あの狩人は運悪く、蟲の遊び場に入ってしまったのだ。
狩人は一人。
………苦戦している。
「………巻き込まれる前に、ここから離れるぞ…」
「………うん」
―――同じ狩人の同僚の危機を、二人は何食わぬ顔で無視を決め込んだ。
良心は痛まないのか、と言われれば………痛むのは当たり前だ。
しかし………狩人の世界は生温くは無い。
一日一日。その時その時。
全ては運命。
生きるも死ぬも、運命。
そして戦いは、宿命。
狩人に与えられた試練。


