「……またあんたかよ」

僕は玄関の前に立っている彼女を一瞥した。
彼女は、何時もの制服姿だったけれど、
長く伸ばしていた綺麗な茶髪を肩まで切っていた。

「涼く、……また来ちゃった」

小さく僕の名前を呟いて、それから、それを打ち消すようにふわりと笑った。
明るい笑顔だけど、全然楽しそうじゃない。
僕はそんな彼女を見るのが大嫌いだ。

「上がったら?」

でも、そんな彼女を放っておけないのも事実だ。

「え、いいの?」

聞き返す彼女に、僕はまた驚く。
急いで来ました、という格好をしているくせに、何故か鈍い。

「こんな暑い中、話を聞かせるつもり?」
「え、いや……ごめんね」

今は、八月の猛暑日。
部活帰りであろう彼女が一番知っているはずだ。
彼女が笑って謝る。
僕が聞きたいのはそんな言葉じゃないのに。

「一応、上がって。何か飲み物でも持ってくる」
「有難う、涼くん」

彼女はまた、悲しげに笑って、とんとん、と階段を上っていった。


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