あのまま出掛けたんだろうか。
すぐに部屋に入っちゃったし、知らなかったな。
飛び出したのはあたしだけど、何も言ってくれなかったことがなんとなく寂しくなった。
リビングの時計を見ると午後八時。
帰りが遅いことは珍しくない。
大学生は忙しいのだ。
「バイトかな?」
「今日はバイト休みでしょ? デートじゃない?」
思わずお母さんの顔を見る。
「でーと!?」
「何よ今更〜。デートの相手なんて何人もいるでしょ? 秀哉、カッコいいもの」
「何人も? 彼女じゃなくて? 意味分かんない」
「相手に困らないって意味よ。秀哉くらい美形だと、彼女は大変でしょうね」
愉快そうに笑うお母さん。
でも、あたしはちっとも愉快じゃなかった。


