しばらくはいつも通り談笑してた二人の空気が次のお父さんの一言で変わった。

「ところで秀哉、前に言ってたアメリカ行きの話しはどうなったんだ?」

 聞き慣れない単語が耳に飛び込む。今アメリカって、言った?
 
「シアトルだったか? あの話。詳しく決まったのか?」
 
「うん、その話だけど……」

 お兄ちゃんがチラリとあたしの方を見た。どういうこと……?

 でもほんの一瞬で逸らされる。

「……後でいいかな?」

「なんだ、まだ先なのか?」

 目配せにまったく気づかないお父さんに観念したのか、答えるお兄ちゃん。

「向こうの希望で。来週から行くことになった」
  
 ただの旅行の話の空気じゃない。心臓が嫌な音を立てて激しく動き出す。手のひらにじわりと汗を感じた。

「そうか、急だなぁ。どのくらい滞在する予定なんだ?」

 全神経を聴覚に集中して。
 息を飲んで耳を傍立てる。