「もう! いやだこれー!」

 狭い家中に響き渡る悲鳴。
 
 鏡の前、あちこちに跳ね回る寝癖を睨み付ける。それと格闘することかれこれ十五分。

 ……時間が無い。

 ショートボブのふわふわと揺れるどっちつかずな髪の毛をなんとか撫で付けようと躍起になってると。

「チィ」

 優しく響く声が頭上から降ってきた。

「お兄ちゃん!」

 あたしより二十センチは軽く高いその人を涙目で見上げる。