「これで、タクシーで帰りなさい。途中、みんなでレストランにでも寄れば良い」

 うんざりだ。
 確かに、金があれば物は買えるし、美味しい食事にもありつける。だけど、今の僕に金は必要ない。金で買えない物が、世の中には多いんだ。

 僕は無視して無言で手を振りほどき、部屋を出る。拓郎と瀬戸さんも、僕の後に続いた。
 そのまま無言でエレベーターに乗り、正面玄関から外に出る。

「帰るか」
 拓郎が僕の肩を叩き、愛想笑いをする。その笑顔には柄にもなく、優しさが溢れている。
「瀬戸さんは、どうするんですか?」
「え・・・ああ、私は高校の近くまで自分の車で行ったから、とりあえずそこまで帰らないと」
 やはり、明らかに瀬戸も元気がない。

 気にはなるものの、僕たちには何の力も無いし、何の権限も無い。
 目の前に迫る危機を知っても、尻尾を巻いて逃げ出すことしかできないのだ。


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