古典準備室は古典担当教師の、言わば控え室。この高校に古典の先生は4人いる。
「失礼します」
 僕はそう声を上げ、古典準備室の扉を開いた。

 しかし、そこにはグレーの机が4つ正方形に並んでいるだけで、阿部先生どころか誰もいない。
 大きくため息を吐き、部屋を出ようとした時、僕を呼び止める声が聞こえてきた。
「何のご用ですか?」
 その声は、天井まで届く本棚の向こう側から聞こえてきたようだ。

「阿部先生は、いらっしゃいませんか?」
「ああ、私にご用ですか。どうぞ、奥まで入って来て下さい」
 言われるまま室内に足を踏み入れ、本棚の向こう側へと向かう。

 本棚の向こう側を覗き込んだ瞬間、僕は言葉を失う。
 本棚と壁に挟まれた幅1メートル程の空間に机が1つ置かれ、その机を中心に無数のコードが伸びていたのだ。まるで、インターネットに立ち向かう戦闘機の、操縦室に思えた。


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