月曜日、週末を自宅で悶々と過ごしていた僕はあまり眠れず、いつもより1本早い電車で登校した。

 校舎に入り、ダラダラと階段を上がっていると、珍しく慌てている阿部先生に遭遇した。
「おはようございます」

 阿部 寛一、32歳独身。常に緩慢な動きの古典担当の先生だ。薄汚れた白いポロシャツ。それに、寝ぐせ付き鳥の巣頭により、女子生徒からは存在さえも否定されている先生。
 授業は適当だし、今ひとつ何を考えているのか分からないが、穏やかな気性で、僕は嫌いではない。

「ああ前田君。今日の1時間目は、自習にするからみんなに言っておいて下さい」
「あ、はい」
「お願いしますね」

 小太りの身体を無理矢理動かして走り去る阿部先生の背中を見送り、僕は教室に向かう。
 何だか分からないが、1時間目が自習というのはラッキーだ。


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