体育館の扉には、取って付けたとうな「瀬戸 麻美ファンの集い」と書かれた貼り紙。コピー用紙に、黒のマジックで書いてある。中には誰もいないが、鍵が掛かっていなかったことを考えると、事務所の人が開けたに違いない。だとすれば、やはり会場は間違いなくここだ。

 体育館のど真ん中に座り込み、あれこれと思案を巡らせたり、昨日配布されたメールを確認したり―――落ち着きがない僕の行動には、明確な理由がある。集合時間の30分前、10時30分を過ぎても僕以外、誰一人として姿を現さないからだ。

 だまされたのか?
 でも、メールの送信元は間違いなく瀬戸 麻美だ。日時も間違えていない。
 それなら、どうして?

 10時55分。
 途方に暮れる僕の視線が、ゆっくりと開く体育館の扉を捕らえた。その光景に、思わず安堵する。ようやく2人目のファンが、この場に現れたのだ。