「彼女が、浩平君が来たら呼んでくれってさ」
「あ、はい」

 僕は店内の一番奥を見る。そこが彼女、Z(ゼータ)さんの指定席だからだ。
 Zさんが何者なのかは知らないが、モモエのヌシ的な存在で、四六時中一番奥の席に座っている。
 いつも、淡いピンクに白のストライプが入ったジャージに、何かよく分からない絵柄のプリントシャツを着ている。そして、黒縁眼鏡にオカッパ頭。年齢的には20代半ばから後半と思われる。

 Zんはインターネットやシステムに精通していて、常連客は全員、来店すると挨拶をする。
「こんにちは」
 僕の声に反応し、画面からこちらに視線を移す。Zさんは僕を認識すると、テーブルの上に置いてあるCD‐ROMに手を伸ばした。

 誰が呼んだのか、本人が名乗ったのか、僕が知る限りでは既にZさんはZさんと呼ばれていた。


.