少年は相変わらず険しい顔のまま続けた。

「おまえ、名前は?」

「春花、桜木春花。」

何とか少年の機嫌を直そうと春花は素早く名前を言った。

「春花か…。もし、おまえが本当にオーバーグラスから来たんなら、センタータウンに報告しなきゃならないんだ。」

「センタータウン?報告?」

春花は知らない言葉のオンパレードに首をかしげた。

「はあ~っ。って、言ってもわかるわけねぇよな。…しょうがねぇな、俺が連れて行ってやるよ。」

春花は驚いた。
今までの険しい顔とは違って少年は優しい顔になっていた。

「なんだよ、ボケッとして。」

「あっ、いや、何でもないです…。」

春花の声はどんどん小さくなっていった。

少年は気まずそうに言った。

「悪い…。」

「…っえ、何が?」

「…っだから、俺、顔怖いだろ?よく人に言われるんだよ。」

少年は少し照れたように顔を背けた。

春花は少年の新しい一面を見て親近感がわいた。

「ねぇ、名前なんて言うの?」

「なんでおまえに名前教えなきゃいけないんだよ。」

「うちの名前は知ってるのにずるいよ。」

春花がすねたように言うと、少年は少し悩んだ後、おもむろに枝を取って地面に何か書き始めた。

春花が覗き込むとそこには〈柊〉と書かれていた。

「柊(ひいらぎ)?」