**新米パティシェのバレンタイン**

バレンタイン当日まで、あと1時間を切った頃、あたしは疲れた身体を引きずって、玄関のドアを開けた。


「ただいまぁ~…」

疲れきった生気のない声で言うと、靴を脱ぎ捨てフラフラとリビングへと向かう。

「おかえり。えらく元気の無い声だな?あんまり遅いから迎えにいこうかと思っていたんだぞ?」

リビングのドアを開ける前に響さんが顔を出して、あたしを出迎えてくれた。

「ん~疲れた…。もうダメ。響さん、ちゃんとご飯食べた?」

「うん、俺は遅番だったし、スタッフと一緒にクリニックで弁当食ったから」

ああ、そっか。自分の旦那様のシフトも頭に入っていないくらい、あたしボケているんだ。
なんせ、ここんとこメチャクチャ忙しかったからなあ…。

バレンタインが近づくと、あたしのパパの洋菓子店【SWEET】はとても忙しくなる。

だから勉強しながら実家のお店を手伝っているあたしも、必然的に忙しくなる。

バレンタインの前は猫の手も借りたいくらい忙しいから、まだパティシェにはほど遠いあたしなんかでも重宝されて、ちょっと嬉しい。


それに、今年はちょっと特別だった。