それは、夏の日の夕刻。
千茉莉が夕食の準備をしているときのことだった。
新米主婦の千茉莉は、お菓子を作るのは上手いが、料理の腕はまだまだで、一人暮らしの長い俺のほうがレパートリーも多い。
基本的には彼女が作るのだが、時間のあるときは俺も出来るだけ一緒に手伝うようにしている。

そして、味見と称して、ついでに千茉莉を構ってしまうのも楽しみの一つだ。

え? 何を味見しているって?

まあ…新婚さんって事で、その辺はノーコメントな?

だって、愛妻が可愛いエプロンで一生懸命俺の為に慣れない料理を作っている姿というのは、オトコゴコロを擽るものがある。
ついついギュッと抱きしめたり、キスをしたりして、邪魔しちまうんだよなぁ。
で、怒られたりするんだけど、千茉莉だって満更でもないんだぜ?
だって、怒っている割にはキスしても逃げないし、あれこれされるがままだったりするしさ…

だから、いつものように彼女を後ろからギュッと抱きしめたんだ。


「ち~ま~り。何作ってるんだ? 手伝おうか?」

「シッ! 黙って」

「…へ?」

振り返る彼女の視線はいつになく鋭く、見たことがないほど冷たかった。
ピンと張り詰めた雰囲気に、思わず抱きしめた腕を緩め、数歩下がって壁に張り付く。

――刹那…

「成敗っ!」


シュン!

――ドスッ★

ビィィィィィィン……