ヒオカ先生が、
あたしを引きよせるその手が
思った以上に強引だったから、


あたしは思わず
ヒオカ先生を見上げた。



「佐野さんは、
うちの大事な生徒だから」


ヒオカ先生は友人たちにむかって
如才なくニコリと笑った。



「なんだよ〜、つまんねぇの!」


「修平先生!
美人な保健の先生とかいたら
紹介して♪」


「オレもオレも!」


友人たちは、
今度はヒオカ先生に絡み出す。



「なに言ってんだよ」

ヒオカ先生の笑い方、
いつもと違う。


気を許した友人たちに見せる、
くだけた笑い。



知らない表情、言葉づかい、呼び名。


あたしの知らない日岡修平が
ここにいる。




ヒオカ先生が、
“先生”してるとこも知らない。


プライベートなんて
もっと知らない。


あたしだけが知ってる
ヒオカ先生なんていない。


特別なんて
勘違いもいいとこだわ。




とたんに、あたしは
さみしくなった。



今ここで、
泣いてしまいそうなくらい。