ヒオカ先生は、
気恥ずかしそうに肩をすくめた。


「…それから、
もう最後にするって、離れたり。

佐野さんは、それほど俺のこと
本気じゃないんだろうな、
とか思ってて」



「そんなこと…。

それは…、あたし自身も
自分の気持ちがわからなくて…。

…はじめてだったから、
…どうしたらいいか
わからなかったの」



はじめての恋。



触れたいという気持ちが
恋の始まりだったなんて…。


気づいたのはずっとあとだった。



…確かに、そんなあたしのこと、
不審に思っても仕方ないよね。



手摺りに置かれたヒオカ先生の手に
視線を落とした。




「もちろん、
佐野さんは、遊んだり、
人をからかったりするような
子じゃないってわかってるよ。

それだけじゃなく、
何より俺が教師っていう
立場上のこともあって、

ごめん、

ずっと真っ直ぐ佐野さんと
向き合うことを避けてきてた。

…先に手を出したのは俺なのに。

ズルイよな。
ほんと勝手だと思ってる」



そんなことない。


あたしは首を振って
ヒオカ先生を見上げる。



「バラを育てながら、
俺は佐野さんを見てた。

初めは、知ってる子だったから、
っていうくらいの気持ちだったけど、
喜んで欲しいって思って育ててた。

佐野さんと再び接するようになって、
正直言うと、教師だってこと
忘れることがあった。

ふとしたときに頭によぎって、
佐野さんが生徒なんかじゃ
なければ良かったのにって
思うこともあった。

けど、俺を通り過ぎて
東京に行くって言う
佐野さんを想ったところで
仕方ないって自制してたけど、