「東京来たって感じするなぁ…」



眼下に広がる東京の景色を
眺めながら
ヒオカ先生はつぶやいた。



あたしは
ヒオカ先生の横顔を見上げる。




東京タワーに行こうって
誘ったのはヒオカ先生だった。


行ったことないからって。


あたしも行ったことがなかったから
二つ返事で受け入れた。



ヒオカ先生とデートみたいで
嬉しかったし。



日が落ちはじめた時間の
東京タワー。



天気がいいから、
見晴らしは最高。


夏休みだから、
観光客が多くて騒がしいのが
難点かな。




「…もっと早く
話すべきだったんだろうけど、

自分の中で気持ちをちゃんと
整理したかったんだ」



景色を見ながら
ヒオカ先生は切り出した。



騒がしい周囲。


聞き逃さないように
耳を集中させた。



「佐野さんのこと、
ずっと考えてた。

自分たちの関係のことも含めて」



緊張が身体を走る。


一瞬で周囲など
気にならなくなった。



「佐野さんに
好きだって言われるまで…、
いや、言われてからも、
もしかしたら、
からかわれてるんだろうかって
思ったりもした。

これまでずっと
佐野さんの本心が見えなくて
不安だったこともあって。

佐野さんがどういうつもりで
その、俺と…」



ヒオカ先生は言いにくそうに
口ごもるそぶりをしたから、
あたしが代わりに言った。


「あたしが、
付き合ってもない状態で、
キスして欲しいとか
言ったりしたから?」