「外で待ってるつもりだったけど
せっかくだし入ってみた。

いい大学だね。
校舎が新しくて、駅にも近いし」


ヒオカ先生は、
グルッと校舎を見回した。



「うん。それより、
どっからどう見ても、

ヒオカ先生、
大学生に見えるよね」


あたしも私服だから、


「はたから見たら
大学生同士に見えたりするのかな。
…なんて」



「…そうかな〜、
もう結構いい大人なんだけどなぁ」


ヒオカ先生は肩をすくめて、
やや不満げに苦笑いした。



「見えるよー、若いって!!

もっかい学生に戻ったって
違和感ないよ」




“学生に戻ったって”


ヒオカ先生の元カノと
会った夜のことを思い出しながら、

わざと強調して言って、
ヒオカ先生の顔を見た。



あたしの意図をくんだのか、
短い沈黙を経て、
ヒオカ先生は言った。


「…紗彩?」



あたしは黙ったまま
コクンとうなずいた。







先日の夜、
ヒオカ先生の元カノは、

いきなりあたしに
お願いがあると言って呼び出した。


『結婚するの』
と話の流れで見せられた
左手の薬指の指輪を見たまま、

あたしは涙が止まらなくなった。



元カノは、オロオロしながら、
あたしの状況を理解しようと
必死で考えている。


『え、何、
…なんか私変なコト言っ…』


考えながら
何かを悟ったんだろう、
急にハッとした表情を
したと思ったら、


『違うからね!』

と叫んだ。