夏休みも終盤の某日。



あたしは一人、
東京駅に降り立った。


大学のオープンキャンパスに
参加するために。



一人で東京来るなんて始めてだ。


一人で新幹線に乗るのも
始めてかも。



ソワソワ落ち着かないのは、
一人で東京に来て
浮足立ってるからじゃない。



せっかくわざわざ出て来た
東京の景色も、大学の雰囲気も、
なにも心に残らなかった。



オープンキャンパスに
来た意味がない。



けどもういいや。


気持ちが乗らなくて、
見学を早々に切り上げて、
校門へ向かった。



確か校門ってあっちだったっけな。


広い校内に若干迷いつつ
キョロキョロしてたら、


校内を一人ぶらつく
ヒオカ先生が目に入った。





“話がある”と
ヒオカ先生が言った。



多分、この前
あたしが告ってしまったことへの
返事なのかな、って思う。




ヒオカ先生の方へ
向かわなくてはならない足が
止まった。




人目を忍んで会うって、難しい。


学校だけじゃなく、
例えば会社とか。


職場恋愛とかよく聞くけど、
皆一体どうやって

秘めていくべき恋を
育んでいくことが
できてるんだろう。



人が通る気配、
人に見られてるかもしれない感覚。



告ってから、
あたしが意識し過ぎちゃってる
だけなんだろうか。



校内じゃ、
二人きりで話すなんて難しい。


人に感づかれずに、
器用にすれ違うことすら
ままならない。



他の誰かが上手くやったって、
あたしにはできない。