あたしにお願いがある。



手を合わせたヒオカ先生の元カノ。



まるで
時間でも止まったかのように、

あたしは、元カノの左手の薬指に
はめられた指輪を凝視していた。



あたしの視線に気づいた元カノは、
照れながらはにかんだ。



「えへへ、私、
実はもうすぐ入籍するんだ。


まだ病院には行ってないんだけど、
どうもできちゃったみたいで。


まさかこんな急に
結婚ってなると思ってなくて、
自分でもビックリしてるんだけど。

式の予定もないし
指輪だけ先にもらったみたいな。


自分的にね
あれよあれよだったもんで、
低いヒール買わなきゃと思いつつ
最近残業多くてなかなか…


って、どうしたの、
シイナちゃん!?」




元カノを見つめたまま、
あたしの目からは、
ボロボロと涙がこぼれ落ちていた。



声も出ない。

思考も止まった。



ただ涙だけが、
詮でも壊れた?ってくらい、
ボタボタと止まらなくて、

自分でも自分にビックリしていた。




目の前で、
元カノはオロオロしている。




こんな幸せな女が、
こんな不幸せなあたしに対して、

お願いがあるだなんて、
たいした嫌がらせもいいとこだ。