バーからの帰り道、
アパートへの道を
母と並んで歩いた。



アパートの近くで、
線香の匂いを強く感じた。


子どもたちの
はしゃぐ笑い声とともに。


近所の子どもが花火をしていた。



「イイわねぇ〜。
花火したいわぁ〜」


母は、うらやましそうに
目をやりながら、


「今年、まだなぁんにも
夏っぽいことしてないわ〜」


と、ちょっぴり寂しげで、
ちょっぴり不満げに、
花火を楽しむ家族の姿を
チラ見していた。



「あたしも。
夏なんてまったく
満喫してないし」



「えー、
高校最後の夏じゃないの!

海行ったり、BBQしたり、
花火行ったり、浴衣着たり、
楽しまなきゃ損よ?!」



まったく。

母親らしからぬ台詞に、
あたしはため息をつく。


「受験生なんだけど」



すると母は、


「ね〜、大学さぁ、
**大学なんてどうよ?」


いきなり地元の国立大学の名を
あげた。


「前に、三者面談のときに
先生言ってたじゃない。

目指してみないか、って。

全然大学名知らない私でも
知ってるこの辺で一番の大学。

確か、ほら、
千早ちゃんのお姉さんが
行ってたとこよ」



「…何、急に」


「前から思ってたんだけど、
機会がなくて黙ってただけよ。

一人暮らしがしたいなら
すればいいけど、

わざわざ遠い東京まで
出て行かなくても
いいんじゃないかって。

東京で一人暮らしなんて
心配じゃない」