「…それから、実は、
黙ってたんだけど、

あたし一度だけ“あの人”と
会ったことあるんだ」



あたしは母にうちあけた。

もうすべて
言ってしまおうと思った。




知っていたのか、
それとも知らなかったのか。


母は
どっちともつかないような顔で
穏やかな声で
「…そう」と言った。



「…今まで、黙っててゴメン」



「謝ることなんてないのよ。

自分の父親なんだから」



「そうじゃなくて…。

…“貰った”こと黙ってて」



おずおずしたあたしに、
母は不思議そうな顔をした。



「“貰った”って、何を?」



「お金。

大学に行くためのお金。

あの人から貰っちゃった」


首をすくめて
ちらりと母の顔を見た。


ずっと黙っては
いられないことだから…。



一瞬キョトンとしたあと母は、


「いいんじゃない?

シイナには
その権利があるんだから。

ていうか、
もっと貰ったら良かったのに。

もったいなぁ〜い」


と、実に小気味良く
カラカラと笑った。



チャーミングで、
はっとするほど魅力的だった。




つられてあたしも笑った。

肩の荷がおりた感じがした。



それから、

きっとあたしはこの先もずっと、
母にはかなわないんだと悟った。


疎ましく思い、
寂しく思い、

それから
魅力的だと思うんだろう。