母の話によれば、

あたしのお祖父さんにあたる人は、

会社が倒産して借金を作って、
お酒を飲んで、

母やお祖母さんに
暴力をふるっていたらしい。


耐えられなくなって、
母は一人家を出ることに
なったんだという。



数年前にお祖父さんは他界して、
そのあとお祖母さんとも
少しずつ連絡をとるようになって、

今は通える距離に
住むようになったんだけど、

それまでは、
母は自分の家族と絶縁していた。




「家を飛び出した私は、
お金のために、
年を偽って夜の世界に入ったの。

そこで“あの人”と出会った。

あの人は上客だった。

高校中退して、
学のなかった私に、
色々教えてくれたわ。

夜の仕事を辞めれるよう
援助してくれて、
美容師になる道を
拓いてくれたんだ」


母は、淡々と語った。



そして、いつしか、
恋になったんだと。



「…ただ、
どれだけキレイな言葉で
言ったって、
あの人には奥さんがいた。

許される恋じゃない。

それは、わかっていた。

承知の上で、
あの人と付き合っていた」



…苦労してきたんだなぁ。


苦労を微塵も感じさせないくらい
ツヤのある髪は
キレイにセットされて、

暑いのに化粧も崩さない母は、
どんなときでも
オンナとして生きてるって感じ。



退院したばっかで、
ケガしてるっていうのに、
どこまでこの人は…。




「…それで、幸せだったの?
結局別れて、
一人で子どもを産んで」



ずっと母に聞きたかった。



「結婚しても、
また別れて、
彼氏ともまた…」