「シイナは、
聞いてこなかったけど、
それでも本当は
知りたかったでしょう?

自分のルーツを。
何故自分に
父親がいないのか…ってこと」



母は、
あたしの顔色を伺いながら
聞いてきた。



あたしの、ルーツ…。

ルーツって大ゲサな言葉。


「うん、まぁ…そりゃ、ね」



知らなくても生きて行ける
とはいえ、知れるなら。



だけどこんな風に
気詰まりなくらい改まって
語られなきゃいけない
生い立ちって、

むなしいなぁと
しみじみと感じた。



本当の父親であるあの人の正体は
もう知っている。


ただ、母の口から
直接聞いたことが
なかっただけで。



あたしも、あの人のことを
母に聞いたり、

会ったことを
話したりしなかったし。


きっとほとんど
何も知らないって
思ってるだろうな。



ちらりと
葉巻から立ちのぼる煙に
目をやった。


母が、今日このタイミングで
話そうと思ったのは、

やっぱり、
あの人がいなくなったことを
知ってるからだと確信した。



それはどういう心境からだろう?
と、疑うような気持ちに
なりつつも、

わざわざこんな想い出の場所に
出向いてまで

母の口から
語られようとしてることが
興味深かった。




「ずっと言わなきゃって
思っていたんだ。

私の口からもきちんと」


母は言った。




両親と
上手くいっていなかった母は、

17歳のとき、
高校を中退して、
家を飛び出して
一人暮らしを始めた。