ヒオカ先生に連れられて、
葬儀が執り行われている会場に
たどり着いた。



“香椎家”と
掲げられた名前を見て、

重かった足どりが
いっそう重くなって、
まるで鉛のように動かなくなった。


あたしの手を引くヒオカ先生に
抵抗した。


どうしても中に入れない。

だって、怖い。



振り返ったヒオカ先生に、
弱気な視線を投げかけた。


「…だって、ダメだよ、
だって、あたしなんて、
入れてもらえる訳ないじゃん!」


不倫相手の隠し子なんて。


どんな顔して
参列できるっていうの。

背中に汗が流れた。



「…わかった。ここで待ってて」


怖気づくあたしを置いて、
ヒオカ先生は一人で斎場の中へ
入って行った。



所在なげに
その場をウロウロしてたら、

しばらくして、
ヒオカ先生が出て言った。


「喪主に話をしてきたよ。
焼香、あげていいって」



「え…、ちょっ…」


驚きと戸惑いと恐怖。


心の準備が整わないまま、
ヒオカ先生に背中を押されて、
中に入った。





線香の匂いがする。



たくさんの黒い服を着た人たちが
一斉にあたしに注目した。


この人たちは、本物の親族。



そして、
誰が誰だかわからないけど、
“その人”のことは、
なんとなく雰囲気でわかった。


受付台の近くにいる
黒い着物を着た女の人。

まわりに人を付き従えるように
立っている。


その人が喪主。

本物の奥さんだ。



母とはまるで印象が違う。

冷たい表情をしたキレイな人。