なんとか、
ソファーに座り直したけど、
手がずっと震えている。



電話を切ったあと、
ヒオカ先生は
たぶんまっすぐあたしのもとに
駆けつけてくれた。


軽く息があがったまま、
あたしの横に座った。


「大丈夫?」

と、心配そうに手を伸ばして、
うなだれたあたしの肩に一度触れた。



あたしはその手から逃れるように、
姿勢を正して、
手にぎゅっと力を入れた。



ほんとうは、手に触れて、
震えを止めて欲しかった。


でも頼り切っちゃいけない。



ただの教師と生徒に戻る。

そう決めたばっかだったから。



誰かに話を聞いて欲しいだけ。


心細さと不安を
温もりでごまかしちゃいけない。


わかっていたけど、
もたれかかりたい。


でもダメだ。

とめどなく
しがみついてしまいそうだったから。


あたしは必死で
自分の体を支えた。





それから
どれくらい時間がたっただろう。


あたしはヒオカ先生に、
ポツリ、ポツリと話をした。



触れるわけでもなく、
ヒオカ先生はただ横に座って
話を聞いてくれた。



高台にある病院のカフェスペースから
見晴らしのいい景色広がっている。



いつの間にか
すっかり暗くなっていた。




“母子ともども
もう二度とあの人には会わない”


“認知もしない(相続の放棄)”



それが本妻から、
不倫の末身ごもった母に対する
条件だった。