「お嬢ちゃん、大丈夫?」



パジャマ姿で
点滴スタンドを押したお婆さんが、
心配そうにあたしを覗きこんだ。



人の親切も
耳には入ってこなかった。



ただ茫然と宙を見ていた。




…ああ、きっと、
母も知っていたんだろうな。




怖かった。



あたしには関係のない人が、
いなくなったからって
一体何だっていうの。


そう思っているのに、
あたしの身体は震えっぱなし。



一人で、現状を受け入れるのが
怖くてたまらなかった。



目の前がユラユラする。



指先に力が入らない。

ケータイを手にしたけど、
メールが打てない。



床に座り込んだままの身体が
どんどん冷えていく。


呼吸が上手くできなくて
息苦しい。



…頼るのはやめようって
決めたけど…。



ヒオカ先生の声が聞きたい。


とにかく落ちつきたかった。



発信を押していた。



何度かコール音がして、

『はい』

ヒオカ先生が出た。



「…」


電話をかけておきながら、
何も言葉が出てこなかった。



『…もしもし、佐野さん?』