強い風が、
車の側面に吹き付ける。



「家まで送る」って
言ってくれた言葉に甘えて、

車を運転するヒオカ先生の助手席で、
あたしは窓の外を見ていた。


雨が、ザアッと窓に当たる。



膝にのせたカバンの中が
振動した。


着信だ。



ケータイ取り出すと、
父からだった。



“父”っつっても、
母と離婚した義理の父。


あたしにとっては
この人こそが、“お父さん”。




「ちょっとゴメンね」

ヒオカ先生に断ってから、
電話に出る。



『…シイナ、ちょっといいか?』


父の声が、
いつもと感じが違うのは
すぐにわかった。



「どうしたの?」


って、不審気味に尋ねたら、



『シイナ、単刀直入に言うな。
…“本当のお父さん”に
会う気はないか?』



「え?」


まさか、
父の口から聞くことになるとは
思わなかった言葉が返ってきて、

思わず耳を疑った。



「…何言ってんの?」


声が冷たく震えた。


隣で運転するヒオカ先生が、
こっちを意識した気配を感じた。



『…ゴメン。

急にそんなこと言われても、
びっくりするよな。
でも、言ってる通りだよ。

本当のお父さんに
会う気はないかな?』



「意味わかんない。
あたしの“お父さん”は、
お父さんでしょ?」