全身にムワッと立ち込める
夏の感じ。


西日の黄色い光が直撃して
目を細めた。



せっかく、
つけたはずの決心が
ゆらいで引き返したくなった。


よどんで蒸し上がった空気に
サックスの音色が響く。




ジャリって、
人の歩く音に気づいた。


期待して振り返ったら、
ヒオカ先生じゃなかった。



向こうの方から、
この旧校舎を見上げながら
歩いてくる大人の男性が…5人。


バラの花壇の前で
佇むあたしの方に向かって
何やら談笑しながら歩いてくる。



クールビズなシャツの2人と、
いかにも何かの作業員風の3人。


シャツの2人は見覚えある。
校長と、教頭だ。



こんなところで何を…。


旧校舎は、夏休み中に取り壊される。


打ち合わせか何かだろうと、
容易に察しがついた。

間違いなく、業者。



彼らがあたしに気づいた。


頭を下げる。

とっととこの場を
離れようかと思ったら、


「おや、こんなところで
どうしたんだい?」

と教頭に尋ねられた。



5人の目が
一斉にあたしに注目した。


こんな、人気のない古い校舎の裏で
何してるんだ?って顔。



「…え…っと、あ、バラを…」


テンパった感じになりながら
花壇をさした。


あたしがここに、
何しに来たか、
見透かされてたりして。

背中に汗がつたう。



「ああ〜」

納得したように彼らも
バラに目をやる。