姿が目に入ると、
身体の中に重石みたいなのがあって、

それがまるで重力を失ったように
跳ね上がる。



慌てて方向転換し、
出くわさないように
教室に戻った。



顔が見たいと思う。

だけど、視界に入るのが
何となく怖い。



席について、下敷きであおいだ。


ドキドキ熱い。


ただの夏の暑さのせいだと
いいのに。



一度知ってしまった恋の温もり。

ないと物足りなくて、
空虚さがつのる。



受験勉強に身が入らない。


だから余計焦ってしかたない。


肘をついて頭を抱えた。


深く息を吐き出す。


ため息と一緒に、
胸の奥の重たいものも
出ていってくれたらいいのに。






このままじゃダメだ。


このままじゃダメ。



あたしは半ば強引に決心をつけて、
放課後久しぶりに裏庭に向かった。


千夏姉の結婚パーティーの前に
行ったきり。



もう、終わりにしなきゃ。


もう一度、キスしてもらって、
それできっぱり切り替えて
もとの生活に戻そう。



自分勝手だけど、
そう心に決めた。




裏庭に着いた早々、
引き返したくなった。



暑い。

日が長い。



バラの咲きかたにも
元気がない。


もう咲き終わりだ。


バラも夏バテしてんのか、
葉っぱにも春のような
みずみずしい元気さがない。


バラが咲きほこったときの、
あの誇らしげな空気は
どこへやら。