「…ひ、ひろ兄?どうしたの?」
「今、元兄って言ったか!??麻衣のことも、全部話したのか!??」

急に肩を掴んで叫んだひろ兄が別人みたいで、少し怖くなった。
鼻の奥のほうがツーンとして、目に涙がたまってきた。
そのことに気づいたのか、ひろ兄は「ゴメン…」と言って手を離し、俯いた。

「本当に、言われたのか?」
いきなり放たれた言葉に、少し戸惑った。
前髪の隙間から少し覗くひろ兄の瞳はとても悲しいものだった。
どう言っていいか分からなくて、戸惑っていたらひろ兄の瞳が持ち上がった。
その少し潤む切れ長の綺麗な瞳に、吸い込まれそうになる。

「ホントのこと…言っていいから」

そういって綺麗な瞳を少し垂れさせて、優しく、切なく、微笑んだ。
ねぇ、気付いてる?
私はその微笑に弱いんだ。
すごく、好きなんだよ…

そこまで出かかっていた言葉を、唾と一緒に呑みこむ。

もしも「言われたよ」って、「どういうことなの?」って…
「私たち”兄妹”じゃないの?」って聞いたら…
ひろ兄は、何て言う?どんな顔する?

…きっと、悲しい顔になる気がする…

「元兄って、いきなり言われただけ…で、でも、別に、気にしてないからね!!きっと、人違いだし…うん、何でもないよ」

ひろ兄は、一瞬顔を歪ませたけど「気にしてない」というと、安心したように、表情を緩ませた。

「…じゃあ、部屋行くね」
「あぁ…」

ひろ兄は、もう一度、優しく微笑んだ。

ねぇ、私が気付いてないとでも思った?
その笑顔の奥に。
眉がすごく下がって、口を硬く閉ざして。

切なそうにしか、見えないよ…

でも私は、その微笑に弱いから、気付かない振りをして、微笑む。


…どうして私は、嘘をついて微笑むときだけ、こんなに冷静に、綺麗に微笑めるようになってしまったんだろう。
きっと、悲しみが多すぎて、慣れてしまったんだ。

そう思うと、自然と目頭が熱くなる。
しかし、涙は出ない。
素直じゃない私の涙は、もう枯れてしまったの?

そう考えると、無性に悲しくなる。