ガチャ

「ただいまぁ~…」

バタン、と扉を閉め、リビングへと向かう。

リビングにつくと、キッチンで水を飲むひろ兄が私に気づいて声をかけてきた。

「お帰り。遅かったな」
「うん…ちょっと、ね」

ソファに鞄を置き、ひろ兄のいるキッチンに行った。
冷蔵庫の中をあさり、スポーツドリンクのペットボトルを取り出す。
キャップを開け、口に近付けたとき、ひろ兄が口を開いた。

「…麻衣は、敬人さんのこと…どう思う?」
「えっ?敬人さんのこと……?」

私は渇いたのどを潤すように、スポーツドリンクを飲んでから、少し考えた。

「…あの人は、なんていうか……不思議な人?」
「不思議?」

ひろ兄は顔を覗き込むようにして、聞き返してきた。
それにドキッとして、顔を背けるようにして俯いた。

「そ、そう!!いきなり変なこと言ったり、泣き出したり…」
「変なこと?」

ひろ兄はまた聞き返す。

あれっ?
…なんか、変だ。

ひろ兄は今まで、あまり深く探ってくるようなことはしなかったのに…


“あの人”のことになると、よく聞いてくる。

…どうしたんだろう?

不思議に思いながらも、私はそのひろ兄の態度に気づかないふりをして話を続けた。

「なんかね、あの人『俺は麻衣の元兄だ』みたいなこと言ってきてね、本当に意味わかんな…」

パッとひろ兄の顔を見上げた時、はっと息をのんだ。
いつも冷静なひろ兄の顔が、どこか切なそうな、驚いた顔になっていたからだ。

…まるで『信じられない』とでも言うような…

私はビックリして、ひろ兄の顔を凝視してしまった。