「!」

その言葉に、猫沢は目を見開いた。

「厳密に言うと、闇はあった。しかし、昼と夜。闇と光のように、明確に別れていた。それなのに…月ができた為に、闇は光を知り、嫉妬した」

真田は天井を見上げ、その上にある月を睨んだ。

「闇の女神デスペラードは、元から闇の女神と呼ばれていた訳ではない。彼女は、月の女神イオナがいた為に、闇となったのだよ」

そう言うと、真田は猫沢に視線を戻し、

「嫉妬。欲望。羨望。絶望。それは、月の許にある。ならば、月の光こそが、やつらの餌になる。そして…」

にやりと笑い、

「やつらは、太陽に気付かない!次元が違うからな」

そのまま、影の中に消えた。

最後に、一言だけ残して。

「故に、君は職務だけ全うすればよいのだよ」

「!」

真田が消えると同時に、猫沢の周囲に濃い闇が立っていた。

(先程の魔力を感知したのか!)

猫沢は、傷だらけの乙女ケースを取りだした。

「装着」

乙女ケースが開くと、7色の光が漏れだした。




「人は…闇」

校門の影の中から出てきた真田は、眼鏡を人差し指で上げると、迎えに来ていたリムジンの中に入った。

「なのに…光を生める存在でもある。しかし、光を放つのは、1人でいい。たった1人で」

真田は、リムジン内のソファーにもたれると、眼鏡を外した。

リムジン内は、結界を張っており、魔力が漏れることはない。

「真田家の悲願。お仕えするお家を、天下一にすること。今回は、しくじる訳にはいかない」

真田の眼が、赤く輝いていた。

「月の女神も月影も…。砂の使者も…。我らの為に働くがいい」

真田は、運転席でハンドルを握っている男に話しかけた。

「と思わぬか?才蔵」

「御意」

才蔵といわれた男は、頭を下げた。

「我が作に抜かりはない。近い内に、この世界の国々は一つになる。太陽に照らされてな。そう…人間は、見上げることなく、分相応に前だけ向けばいいのだよ。人の幸せは、真上にはない。前だけだよ」

真田は再び、眼鏡をかけ直した。

お嬢様となった綾瀬が、近付いてきたからだ。