そんな男の言葉に、軽く呆れた後、幾多は足を止めた。

「だったら…」

ゆっくりと振り返り、

「僕を殺したらどうだ?」

男を睨んだ。

「それは、駄目だよ!」

男は即答した。

そして、幾多の方へ一歩前に出ると、

「君は、料理人だ。大事な料理人だ!僕への料理を提供してくれるね。料理人は殺さない。だから、そんな目で見ないでよ」

少し混乱した後、何かに気付いたのか…はっとして、自分の手を舐めた。

「僕は、素材になりたくない。あまりおいしくないからね」

舐めながら、自分を見つめる異様な雰囲気の目の色に、幾多は殺意よりも、少し興味を持った。

しかし、そんな興味よりも、呆れる感情の方が強かった。

再び前を向いた幾多に、男は叫んだ。

「人の肉は美味しくないよ。雑食だからね。だけど、最高の食材に変わる魔法がある!」

男は目を見開き、

「それは、恐怖だ!そして、絶望!その感情を覚え、怯える人間の肉が一番旨い!だからこそ、僕は!やつらに加担している。この世界が滅んだ時!絶望する人々を食べまくるんだ!ああ〜まさに食べ放題だよ」

「偏食者が」

幾多は、顔をしかめた。

「だからといって、僕は〜あいつらのように化け物ではないよ。人間だ!」

男の口から、大量の涎が流れていた。

「化け物が人間を食うの普通かもしれないけど、人間が人間を食うのは、最高でしょ」

「知るか」

幾多はもう相手するのを、やめた。

遠ざかっていく幾多の背中を見送りながら、男は口を尖らせた。

「仕方がないな。別の料理人を探すよ」

男はため息をつくと、町並みを見回し、

「人は誰でも、料理人になれるよ。最高の料理人にはなれないけど…殺したい相手は必ずいる」

にやりと笑った。

「さあ〜誰かを殺せ!己の為!そして…」

男の目が、妖しく光った。

「僕の為に」