「ふわぁ〜」

半月ｿﾙｼﾞｬｰによる騒ぎが治まり、授業は再開されることになった。

お決まりの転校生紹介を受けてから、開八神茉莉の体を持つ綾瀬太陽は、席に着いた。

開八神家の名は知る人ぞ知る名家であるが…高校生で意識している者はいなかった。

ここに来る前の学校は、開八神家の息がかかっていた為に、気持ち悪い程の特別待遇を受けていた。

大月学園に来て、久しぶりに普通のありふれた机と椅子に座ると、妙に落ち着いてきた。

(まあ〜変な学校だけど…少しはましかな)

と綾瀬が思った次の瞬間、教室の前のﾄﾞｱが開いた。

｢茉莉お嬢様ああ！｣

今どき珍しい丸坊主に、今どき珍しい長ラン。よく漫画で見る…昔の不良の格好をした男が、涙を流しながら、絶叫した。

｢どうして、お嬢様といっしょのｸﾗｽじゃあないんですかああ！！｣

涙を流す大男の顔も…今どきではなかった。どう見ても、学生には見えない。

(おっさんだ！)

ｸﾗｽ中の生徒が一斉に思ったように…明らかに、おっさんだった。顔に刻まれた皺が、年輪を感じさせた。

｢ｹﾞｯ！｣

綾瀬は明らかに、嫌な顔をしてしまった。

(し、しまった！)

心の中で、そう思ったが、もう遅い。

次の瞬間、大男の表情が凍り付き…しばらくの沈黙の後、大男は額を教室の柱に、叩きつけた。

柱に、ﾋﾋﾞが走った。

｢お、お嬢様…｣

今度は髪の毛をかきむしりると、額が割れて血が流れている顔を、綾瀬に向けた。

｢私をそんな目で見ないでくださああい！｣

血と涙を流しながら、大男は絶叫し、その場で崩れ落ちた。

そして、肩を震わしながら、話し出した。

｢松村純一郎…。お嬢様の為、就職後に…前の学校に派遣されて、十年！お嬢様の為！お嬢様の為に、生きてきた純一郎に…何という冷たい仕打ち！｣

純一郎は再び額を、今度は床に叩きつけ出した。

(そうか…こいつは、中身が俺と知らないんだ)

開八神茉莉の精神が入れ替わっていることは、使用人の中でも一部しか教えられていない…重要機密だったのだ。