「〜で、あの馬鹿は何か知ってたの?」

生徒会室の前で、中に入らずに腕を組んで壁にもたれていた里奈は、出てきた夏希に訊いた。

「覚えていないらしいわ。あの変なパンツを手に入れた理由をね」

夏希は、肩をすくめて見せた。



「やはり…駄目か」

生徒会長が不在の部屋の中で、椅子に縛りつけられた半月ソルジャーに目線と合わせ、記憶を探っていた理香子はため息をつくと立ち上がった。

どんなに忘れたとしても、脳には残っているはずである。

しかし、それがない。

「これ以上やると、脳に障害が残るかもしれない」

虚ろな目で、椅子に座っている半月ソルジャーを見下ろす理香子に、蘭花が吐き捨てるように言った。

「こんなクズ。どうなってもいいでしょう」

「そんな訳にはいかない。記憶がなくても、やつらと接点があった。何かしらの痕跡が残っているかもしれない」

「だり〜いな」

生徒会室の隅で、携帯をいじっている蒔絵が欠伸をした。

「…」

その様子を無言で見つめていた加奈子は、おもむろに扉に向けて歩き出した。

「加奈子」

理香子は、扉に手をかけた加奈子の後ろ姿に声をかけた。

しかし、加奈子は振り返ることなく、廊下に出た。

「加奈子?」

深刻な顔をして、生徒会室から現れた加奈子を見て、里奈は眉を寄せた。

「…」

やはりこたえることなく、加奈子は廊下を歩き出した。

「どうしたんだろ?」

夏希は首を捻ったが、里奈は別に驚くことなく、廊下の壁にもたれ直し、加奈子の背中を見送ることもしなかった。

「相変わらずよ」




「…」

無言で、軽く前方を睨みながら歩く加奈子。

生徒会室がある中央館から西館に入ると、人はいなくなった。

「考えは決まったかな?平城山加奈子くん」

光が入らない廊下の闇の部分にもたれていた男は、西館に入ると同時に加奈子に声をかけた。