部室から出た高坂が向かったのは、屋上だった。

同じ学園であっても、ブルーワールドから見える景色とは違っていた。

どこまでも広がる人工物。

ブルーワールドのように、遠くに魔物が飛んでいることはない。

(まだ…実感はないな。ここが、俺の世界だというな)

屋上を囲む金網に指をかけて、高坂は世界を凝視した。

「ここにいたのね」

突然、後ろから声をかけられたが、高坂は振り返ることをしない。

相手がわかっていたからだ。

「どうだった?何か思い出した?」

高坂の隣に来たのは、さやかだった。

「いや…別に…」

高坂はしばらく、さやかを見ずに、町並みを見つめ続けた。

「…」

さやかは、それ以上何も言わずに、ただ…高坂と同じように、後ろから町並みを見つめた。

「クッ」

軽く下唇を噛んでから、高坂は口を開いた。

「ただの事実確認だ。俺には、兄と妹がいた…。妹は兄に殺された。その兄が、ブルーワールドに恐らく逃げた。だから俺は…ブルーワールドに向かった」

「…」

さやかは、苦しそうな高坂の横顔に目をやった。

「なのに…俺は、ブルーワールドでも、やつを止めれなかった。それに、人殺しをさせない使命感はあるのに…妹を殺されたという実感がない。感情がわかないんだ。いや、怒りはあるのに…妹を殺されたのに!身を引き裂かれる程の憎しみがわいて来ない!」

高坂は金網を握り締め、

「俺は、こんなにも!薄情な人間なのか!」

自分自身への怒りで震えた。

「そ、そんなことは……!」

慰めようとしたさやかは、後ろに気配を感じ、振り返った。

すぐ後ろに、1人の男子生徒が立っていた。

いつのまに近くに来たのか…さやかはまったく、気付かなかった。

「高坂…」

男子生徒の声に、高坂は振り返った。

「中島!?」

「お帰り」

学生の名前が自然と出たことに驚く高坂に、中島は微笑んだ。

「!?」

その笑顔を見ていると、失った過去での学園生活を思い出していくように感じた。