「何か…面白いことが起こりそうね」

大月学園から、北部…北西から南東に聳える山の頂上に、1人の女が立っていた。

「空気が懐かしいわ」

女はクスッと笑い、

「そう思わない?」

後ろに控える双子の女達に訊いた。

「は!」

「この匂いは、ブルーワールドの香り。おそらくは、時空間に歪みが生じていると思われます」

「そうね」

女は頷いた。

「このままでは、この世界はブルーワールドに飲み込まれます」

「そうね」

同じ言葉を繰り返した自分に苦笑してから、女は歩き出した。

「この世界…。あたしは、嫌いじゃなかったけど…」

歩き出した女に気付き、慌てて立ち上がった2人は、少し前を歩く女の背中を見つめ、

「よろしいのですか?」
「このままでは…」

少し出過ぎたことだと思いながら、訊いてしまった。

「そうね〜」

また、同じ言葉が出た。

そんな時は、悩んでいるようで悩んでいないのだ。

「風は…炎を煽ることも、消し去ることもできる」

女は空に手を伸ばし、

「だけど…この程度の風では、あたしを感じさせることはできないわ」

風を掴んだ。

「それに…」

ゆっくり掴んだ風を離すと、目線を大月学園の方に向けた。

「別の炎が、揺らめいているようだし」

そして、目を細め、微笑んだ。






「!」

里緒菜と別れ、町並みを歩いていた香里奈は足を止めた。

どこから流れてくる歌声が、彼女を止めたのだ。

「レダ」

香里奈は、その歌手の名を口にした。

単なる流行の音ではない。来月には、消える音でもない。

所謂…本物である。

それも…とびきりの。

(だけど…彼女が凄いのは、歌だけでない。そこに込められたメッセージの深さ)

レダは、ありきたりのラブソングを歌っていた。

なのに、よく歌っている内容を読み解くと…そこに、メッセージが隠されていた。

よくある…平和の歌や、貧しい人々を助けてあげてなどではない。

香里奈はいつも…眉を寄せてしまう。