「くそ!こんなにも早く…砂の使者がくるとは!」

黒のコートを身に纏った男は、大月学園から少し離れた雑居ビルの屋上に降り立った。

「やつらも根本的には、我々と同じはず!なのに!」

「それは、仕方ないわ」

突然、男の後ろに女が現れた。

「ティアか」

男は振り返った。

ブロンドの髪を靡かせて、ティアと呼ばれた女は、男ではなく…その向こうにある大月学園を見つめ、

「彼女達の未練は、絶望ではないから」

寂しげに笑った。

「絶望か」

男も笑った。

「ブルーワールド…」

ティアは、呟くように言った。

「?」

男は訝しげに、ティアを見た。

「その世界でのあたしは…幸せだったみたいね」

ティアの言葉に、男は肩をすくめ、

「知らんよ。あくまでも伝わっている話では、勇者と言われ…天空の女神を産んだらしいがね」

「女神を産んだ女か…」

ティアはお腹に手を当て、

「あたしは…産めなかった」

目を瞑った。

「…」

男は、そんなティアに背を向けると、少し間を開けた後に言葉を発した。

「行くぞ。この世界を崩壊させる為にな。それがお前の未練でもあるのだろ?ティア・アートウッド」

「ええ」

ティアは頷いた。

「もうすぐ絶望が、世界を破壊する。希望なき、世界。太陽なき世界が訪れる」

「そして、世界は一つになる」

「そう…人間は支配者から、転がり落ちるのだ」

男は、眼下に広がる町並みに両手を広げた。

「絶望こそが、人類の真実だ。すべての人間に、幸せは訪れない。しかし、絶望は…平等に与えることができる」

男の言葉に、女は軽く頷いた。

「だけど…。本当の幸せは…絶望の中にもあるわ」

ティアは、男に聞こえないように言った。

脳裏に浮かぶ幸せな風景。

(ただし…心が強くなければならない)

と思った時、ティアの耳に…歌声が飛び込んで来た。

はっとした顔を上げるティア。

「この歌は!?」

「フン」

男は、鼻を鳴らし、

「歌など…すべて鎮魂歌に変えてやる」

口許を歪めた。