「クッ」

その魔力の凄まじさと、爆音と光に、崖側にいた兵士達は退避した。

ヤーンもまた、顔を背けながら、目を瞑っていた。

「赤星浩一!」

音が聞こえなくなってから、ヤーンは叫んだ。

手で庇いながら、目を開けた瞬間、ヤーンは絶句した。

目の前に、新しい谷ができていたからだ。

「な!」

その谷の真ん中に、赤星浩一が立っていた。

「ア、アルテミアはどうした!」

ヤーンの周りで、隊を組み直す兵士達。

赤星浩一は、空を見上げ…一言だけ言った。

「逃げられましたよ」

「何!」

ヤーンや兵士達が、空を見上げた時には、アルテミアの姿は見えなかった。

勿論、アルテミアは飛んで逃げたわけではなかった。

地下から逃げたのだ。

アルテミアが空けた穴は、赤星浩一の足元にあったが…彼によって埋められていた。

「おのれ〜」

ヤーンは悔しがると、その場で地団駄を踏んだ。

「まあ〜いい」

しばらく踏んだ後、ヤーンは赤星浩一の後ろ姿に、目を向けた。

「アルテミアをも凌駕する力!あの力さえあれば、いつでも始末できる!」

ヤーンは、ニヤリと笑った。




「赤星…」

防衛軍の魔敵詮索レーダーに引っ掛からないように、数百キロ向かうにある地中海海底まで、穴を掘り進んだアルテミア。

海中に出ると、マーメイドモードに変わった。

人形を連想させるその姿で、アルテミアはアフリカ大陸に向かった。

できる限り、離れるつもりだった。

(アルテミア)

水中での俺の声を聞いて、アルテミアは海面を目指し、浮上した。

顔だけを海面から出すと、辺りを警戒しながら、アルテミアは話し出した。

「防衛軍は、やつらの手に落ちたらしい。何でも…民衆をやつらは人質にしているようだ」

アルテミアは顔をしかめ、

「その為…ジャスティンは、防衛軍本部を無血開城し、今はどこかに幽閉されているらしい」

ゆっくりと海に流されるように泳ぎ出した。

俺は、あの短時間でよくそこまで話せたなと、自分ながらも感心してしまった。

「そして、あいつも…人々を人質にとられて、やつらの言いなりになっている!」