「フン!」

アルテミアは右肩を入れ、体を真横にすると、氷の剣を突きだした。

「…」

ティアは、ゆっくりと瞼を閉じた。

恐らくは、瞼を閉じるよりも、剣が刺さるのが速い。

ティアは、そう確信していた。

しかし、数十秒たっても、剣が刺さった痛みがない。

砂の体とはいえ、刺されば痛みを感じる。

なのに、刺さっていない。

ティアは再び、目を開けた。

「!」

すると、剣先が額から数ミリのところで、止まっていた。

目を見開くティアから、アルテミアは剣を引くと、背中を向けた。

「待って!」

自分から離れようとするアルテミアを、ティアは困惑しながら止めた。

しかし、アルテミアは足を止めない。

「どうして、あたしを殺さない!あ、あなたの…」

ティアの瞳から、涙が流れた。

「お母さんに似ているから…」

その言葉に、アルテミアは足を止めた。

「あなたのお母さんと似ているから、あたしを殺さないの?」

まだ言葉を続けるティアに、アルテミアは顔をしかめた。

「チッ」

そして、舌打ちすると、振り返った。

「あんたとお母様は、違う!お母様は、あんたのように、簡単に命を捨てるような真似はしない!」

アルテミアは言い切ると、前を向いた。

「あたしは、勇者ティアナ・アートウッドの娘!自殺の手助けなどしない!」

アルテミアは、廊下の先を睨みつけながら、歩き出した。


「あああ…」

遠ざかるアルテミアの背中を見つめながら、ティアは自らのお腹に手を当てた。

「マルコ…。もし、あなたとの子供が産まれていたら…あの子のように、強い子になったかしら?」

ティアは涙を流しながら、笑った。

今さっきまで、自分は…愛する夫とお腹にいた子供を殺した社会に、復讐する為に、再び復活したと思っていた。

どうやら、それは違ったらしかった。

アルテミアの姿を見た時、ティアは自分の後悔を知った。

(ちゃんと…あの子を産んで上げたかった)