「炎の騎士団長!リンネ」

サーシャの叫びを聞いて、九鬼は絶句した。

「騎士団長!?」

「今は…廃業中よ」

リンネは、にこっと笑って見せた。

「クッ!」

サーシャはドラゴンキラーの刀身を、地面と水平にした。

リンネを倒すには、体のどこかにある豆粒程のコアを貫かなければならない。

それは、簡単なことではなかった。

今は、皮膚の表面温度を人間と変わらなくしているが、貫いた瞬間、灼熱のマグマが剣を焼き尽くす。

コアの固さも半端なく、核兵器の直撃にも耐えると言われていた。

サーシャは、ドラゴンキラーの切っ先に、すべての気を集中させ、神速を持って貫くしかないと思っていた。

「騎士団長!?」

サーシャの言葉に、九鬼は唇を噛み締めながら、刈谷の肩越しにリンネを睨んだ。

「おいおい…」

刈谷は、そんな九鬼を見て、ため息をついた。

「リンネ様を意識する前に、目の前に集中しな!」

「!?」

見えない拳が、九鬼の鼻先を通過した。

軽い火傷をおった鼻に気付き、九鬼は我に返ると、回し蹴りを繰り出した。

「炎の魔神に蹴りは!」

刈谷は片手で、蹴りを受け止めようとした。

その瞬間、蹴りは軌道を変えて、真っ直ぐに突き出された。

「ほお」

顎の先で、止まった蹴りを見て、刈谷は笑った。

「フン」

九鬼は足を下ろすと、後方にジャンプして、乙女ケースを突きだした。

「そうちゃ」
「やれやれだわ…」

九鬼の言葉は、肩をすくめたリンネのため息によって、かき消された。

「別に…戦いに来た訳じゃないのよ」

リンネは、飛び込むタイミングを計っているサーシャに微笑んだ後、刈谷の背中に目をやった。

次の瞬間、刈谷は振り向くと、その場で跪いた。

「!?」

乙女ケースを突きだしたまま、固まっている九鬼にも、リンネは微笑んだ。

「心配しなくても、いいわ。この茶番は終わる」

「!?」
「!」

サーシャと九鬼は一斉に、空を見上げた。

凄まじい魔力を感じたからだ。

何もない空が避け、その向こうから誰かが下りてきた。

「天使…」

九鬼は、息を飲んだ。