「そうですね」

カウンターの端に座っていた浅田仁志は、コーヒーカップの中身を見つめながら、静かに頷いた。

「だが…そんな目覚めたばかりの者を殺し回っている連中がいるようだ」

仁志の前に来たマスターの目に、怒りが浮かぶ。

藤崎が彼らを殺しているのは、意図的ではない。

しかし、それがわかることはなかった。

「やつらでしょうか?この世界を破壊しょうとしているもの達の」

仁志の言葉に、マスターは首を横に振った。

「違うだろうな。私が知っている範囲では、やつらの目的は…この世界の崩壊。ならば、目覚めさせた方が、人々の混乱を産むはずだ」

「だったら、誰が?」

仁志は、首を捻った。

「それは…」

マスターが考え込もうとした時、店の扉が開き、新たな迷い人が入ってきた。

「いらっしゃいませ」

何故店に入ったのか、自分でもわからずに、ただキョロキョロするお客に、マスターは笑顔を向けた。





「やあ〜。久しぶりだね。君から連絡をくれるなんて、嬉しいよ」

笑顔を浮かべる藤崎を、人里離れた山奥に呼び出したのは…俺だった。

「何人、殺したんだい?こんなところに連れてくるなんて…秘密の倉庫とかあるのかい?」

期待に胸を膨らませている藤崎には、悪いが…俺は、まったく違うことを考えていた。

(こいつの体から、漂うのは…火薬と血の匂いだ)

「最近の高校生は進んでるね!何人もやっちゃうなんて」

藤崎は、俺の方に鼻を向け、風が運んでいる匂いを嗅いだ。

「確かに…俺は、人を殺したこともある。数多くの人以外の存在も殺した!しかし、それは…この世界ではない。なのに、気付くとは…あんたは一体何者だ?」

俺の質問に、藤崎はきょとんとなり、まじまじと顔を見つめた後、

「何を言っているんだ?こんなに血の匂いを染み込ませているのに」

ゆっくりと俺の体を指差した。

「え?」

俺は驚いた。

やつが感じ取ったのは、俺の魂ではない。

この肉体に染みついた匂い。

そして、この体は…開八神茉莉のものであった。